あなたの工場のディスペンサ、なぜか不良が減らない…そう感じていませんか?
粘度計の数値は、毎日しっかり基準値内。
それなのに、なぜか液だれや吐出量のバラつきが収まらない。
まるで「ディスペンサの機嫌」に振り回されているかのように、熟練の作業員が付きっきりで微調整を繰り返している…。
もし、この状況に少しでも心当たりがあるなら、この記事はあなたのためのものです。
その原因、あなたが毎日チェックしている「粘度」そのものではなく、見落とされがちな『温度』にあるかもしれません。
こんにちは。
株式会社Synapse Fluid代表の篠原 未來です。
私はこれまで、AIを用いた塗布工程のデータ解析を通じて、多くの製造現場の課題解決に携わってきました。
この記事を最後まで読めば、なぜ温度管理がディスペンサ不良の根本原因たり得るのか、そして、明日から何をすべきかが明確になります。
「なんとなく」の調整作業を、今日で終わりにしましょう。
なぜ「粘度だけ」の管理では不十分なのか?
多くの現場では、ディスペンサで使う液剤の品質管理として、粘度計での測定がルーティン化されています。
もちろん、これは非常に重要なプロセスです。
しかし、その測定、いつ行っていますか?
例えば、「朝一番、作業開始前に測定室で」というケースがほとんどではないでしょうか。
ここに、一つ目の落とし穴があります。
測定室で測った「点」のデータだけで、一日中動き続ける生産ラインの「線」の品質を保証することは、残念ながら不可能なのです。
なぜなら、液剤の粘度は、あなたが思っている以上に「温度」によって豹変するからです。
液剤によっては、温度がわずか5℃変化しただけで、粘度が倍近く変わってしまうケースも珍しくありません。
これは、温度が上がると分子の動きが活発になり、サラサラになる(粘度が下がる)、逆に温度が下がると分子の動きが鈍くなり、ドロドロになる(粘度が上がる)という物理現象によるものです。
あなたが基準値内だと信じているその液剤は、ディスペンサのタンクや配管を通るうちに、全く別の顔になっているかもしれないのです。
参考: ディスペンサ-高粘度
ディスペンサ不良を引き起こす「温度の罠」3つのパターン
では、具体的にどのような場面で液剤の温度は変化してしまうのでしょうか。
私がこれまで見てきた現場で、特に多かった「温度の罠」を3つのパターンに分けてご紹介します。
パターン1:朝と昼の「気温差」の罠
最も基本的で見落とされがちなのが、工場の環境温度の変化です。
特に、空調管理が完璧でない工場では、作業を開始する早朝と、機械の熱や外気で室温が上がる昼とでは、5℃以上の温度差が生まれることもあります。
朝のひんやりとした空気の中で調整した吐出設定のまま、昼の温かい環境で作業を続ければ、液剤はサラサラになり、液だれやにじみといった不良を引き起こす原因となります。
パターン2:液剤補充時の「温度差」の罠
次に多いのが、液剤を保管庫から持ってきて、ディスペンサのタンクに補充する際の温度差です。
例えば、15℃の保管庫から出してきた液剤を、25℃の生産ライン上にあるディスペンサにすぐに補充したとします。
タンク内の液剤は、時間をかけてゆっくりと周囲の温度に馴染んでいきますが、その過程で粘度は刻一刻と変化し続けます。
この状態で生産を続けることは、いわば目隠しで運転するようなもの。
吐出量が安定しないのは、もはや当然の結果と言えるでしょう。
パターン3:装置の「自己発熱」の罠
意外な盲点が、ディスペンサ装置そのものが発する熱です。
モーターや制御基板などは、長時間稼働することで熱を持ちます。
その熱が配管やシリンジに伝わることで、液剤が意図せず加温されてしまうのです。
「生産開始直後は調子が良いのに、数時間経つと決まって不良が出始める」
もし、こんな経験があるなら、装置の自己発熱を疑ってみるべきです。
データで暴く!温度が引き起こす不良のメカニズム
温度の変化が、具体的にどのような不良に繋がるのか。
そのメカニズムを整理してみましょう。
これは、あなたが上司や後輩に不良原因をロジカルに説明する際の強力な武器になります。
温度変化 | 粘度の変化 | 主な不良現象 |
---|---|---|
低下 | 上昇(ドロドロになる) | ・吐出量不足 ・塗布がかすれる ・糸引き |
上昇 | 低下(サラサラになる) | ・液だれ、にじみ ・吐出量過多 ・塗布形状の崩れ |
かつて独立したての頃、私はこの「現場の温度」を軽視して手痛い失敗をしました。
完璧なAIアルゴリズムさえあれば、どんな問題も解決できると信じ込んでいたのです。
しかし、ある工場でAIが誤作動を連発。
ベテランの工員さんから「お嬢ちゃんのオモチャは役に立たん」と突き放されました。
原因は、データ上では考慮できていなかった、現場のわずかな温度変化という「ノイズ」でした。
この失敗から、私は「優れたテクノロジーは、現場への深い敬意と理解があって初めて機能する」ということを学びました。
データは嘘をつきません。
問題は、私たちがそれをどう読み、現実と結びつけるかなのです。
明日から始める「温度起点」のディスペンサ管理
では、具体的に何をすれば良いのでしょうか。
高価な装置を導入する必要はありません。
まずは、現状を「見える化」することから始めましょう。
1. まずは「測る」
非接触の温度計を一つ用意してください。
そして、以下の3つのポイントの温度を、1時間おきに記録してみてください。
- 工場の環境温度
- ディスペンサの液剤タンク表面
- 吐出ノズルの先端付近
同時に、その時間帯に発生した不良の件数や種類も記録します。
2. 「相関」を見つける
1週間ほどデータを取ったら、横軸を「時間」、縦軸を「温度」と「不良件数」にした簡単なグラフを作ってみましょう。
おそらく、特定の箇所の温度が上がった(または下がった)時に、特定の不良が増加する、という関係性が見えてくるはずです。
これが、あなたの工場における問題の根本原因、すなわち「ボトルネック」の正体です。
3. 「管理」する
原因が特定できれば、対策はシンプルです。
例えば、タンクに簡易的な断熱材を巻く、小型のファンでノズル付近を冷却する、液剤を補充する際は30分ほどラインの横に置いて温度を馴染ませる、といった工夫で、状況は大きく改善する可能性があります。
まとめ:『なんとなく』を、今日で終わりにしましょう
今回の記事の要点を、改めて整理します。
- ディスペンサの安定稼働には、「粘度」だけでなく「温度」の管理が不可欠である。
- 液剤の粘度は、わずか5℃の温度変化で倍近く変わることがある。
- 「気温差」「補充時の温度差」「装置の自己発熱」が、現場の三大「温度の罠」である。
- まずは現状を「測る」ことで、温度と不良の相関関係を「見える化」することが第一歩。
もしあなたが、原因不明のディスペンサ不良に頭を悩ませ、熟練工の「勘」というブラックボックスにメスを入れたいと本気で考えているなら。
まずは来週月曜、あなたの担当工程のディスペンサのタンクと吐出ノズル付近、この2点の温度を1時間おきに計測することから始めてみませんか?
その小さな一歩が、あなたの工場をデータドリブンな『スマートファクトリー』へと変える、力強い第一歩になるはずです。
最終更新日 2025年9月18日 by nerdyf