生産技術の藤沢です。
車載ECUとパワーモジュールの組立ラインで12年、放熱材の塗布工程を担当してきました。
半年ほど動かしていたら塗布量が合わなくなった、部品を替えたら戻った。
放熱用ギャップフィラーを扱う現場から、この相談を何度も受けます。
多くは摩耗です。
やっかいなのは、これをゼロにする方法が存在しないこと。
どこまでやれば実務上おさまるのか、線引きを整理します。
熱伝導率を上げるほど、流路は削られやすくなる
これは装置の欠陥ではなく、材料の宿命です。
放熱材が熱を運べるのは、樹脂の中で熱伝導フィラー同士が接触して通り道ができるからです。
通り道を太くするには、粒子を詰めるしかありません。
三洋化成工業の放熱ギャップフィラー『サーマップ』のラインナップに、その関係が出ています。いずれも開発品の代表値です。
- 熱伝導率0.9W/mKの品番は、密度1.5g/cm³、2液混合後の粘度が3Pa・s以下
- 熱伝導率4.0W/mKの品番は、密度3.0g/cm³、2液混合後の粘度が455Pa・s(ずり速度1/s、25℃)
熱伝導率が4倍強になると、密度はちょうど倍になります。
「もっと冷える材料に替えたい」という要求は、そのまま「硬い粒子が今までより多く流路を通る」という意味になります。
削れるかどうかは、硬さの比で決まっている
ここから先は、条件がはっきりしています。
日本機械学会の機械工学事典によれば、砂粒のような硬い粒子が接触面に介在して生じる摩耗を三体アブレシブ摩耗と呼び、「アブレシブ摩耗は最も大きな摩耗率をとる」と書かれています。
成立条件も明記されています。
引っかく側の硬さをHa、引っかかれる側をHmとして、Ha>1.3Hm。
1.3倍以上の差がなければ、そもそも削れません。
京セラのビッカース硬度の比較では、アルミナが15.7GPa、超硬合金が15.5GPa、ステンレス鋼が5.0GPaとなっています。
アルミナ入りの材料に対し、ステンレスの流路は硬さ比で3倍以上離されています。
削れて当たり前だった、という話です。
超硬合金なら計算上は条件から外れますが、これは私が公表値を割り算しただけです。
粒子の角張り方や面圧も効くので、超硬にすれば摩耗ゼロとはなりません。
現実的にできることは3つしかない
同じ事典には摩耗量の式も載っています。
半頂角θの突起を荷重Pで押し込みLだけ滑らせたとき、削られる側の硬さをHとしてV=2PL/(H tanθ)。
いじれるのはP、L、Hの3つだけです。
だから対策も3方向にしかなりません。
| 方向 | 具体策 | 限界 |
|---|---|---|
| Hを上げる | 接液部を超硬・セラミックに | アルミナと同等どまり |
| Pを下げる | 吐出圧を下げる、流路径に余裕を持たせる | タクトと両立しないことがある |
| Lを減らす | 流路を短くする、ミキサーを使い捨てにする | ランニングコストに振り替わる |
同事典には「加工硬化による硬さ増加は耐摩耗性に影響しない」ともあります。
焼き入れや表面硬化でしのごうとしても効きません。
もう一つ、現場で使える切り分けを。
京セラが銀ペーストで行ったディスペンサノズルの比較では、精密金属ノズルは使い続けると塗布径が大きくなり、洗浄すると初期水準に戻ったと報告されています。
洗浄で戻るなら付着、戻らないなら摩耗を疑う。
これだけで、まだ使える部品を捨てずに済みます。
最後は自社の材料で確かめるしかありません。
高フィラー・高比重の樹脂の扱いは、放熱用ギャップフィラーの計量から混合吐出までを実演しているページが参考になります。
まとめ
- 熱伝導率を上げることは硬い粒子を増やすことと同義で、避けられない
- 削れる条件はHa>1.3Hm。アルミナとステンレスでは3倍以上の差がある
- 効く変数はP、L、Hの3つだけ。焼き入れでは効かない
摩耗を敵だと思っているうちは、装置の仕様がいつまでも決まりません。
削れる前提で、どこを消耗品として引き受けるかを先に決める。
これが一番早いというのが私の結論です。
最終更新日 2026年9月5日 by nerdyf
