「経年美」のある家に使われる素材たち、無垢材・塗り壁・石を長く楽しむ

新築の家がいちばん美しいのは引き渡しの日、と思っている方は多いかもしれません。
けれど素材によっては、10年、20年と暮らすうちに少しずつ表情が深まっていくものがあります。

はじめまして、新潟市に住んでいるインテリアコーディネーターの長谷川真澄です。
地元の工務店で12年ほど、注文住宅の内装や照明、素材選びを担当してきました。
いまはフリーでコーディネートの仕事を続けながら、住宅の取材記事も書いています。

打ち合わせで「無垢の床って傷が気になりませんか」「塗り壁はひびが入るんですよね」と聞かれることは、本当に多くありました。
この記事では、経年美を楽しめる代表的な素材として無垢材・塗り壁・石の3つを取り上げます。
それぞれが時間とともにどう変わるのか、新潟の気候で気をつけたいことは何か、長く付き合うための手入れはどうするのかを、公的機関や業界団体の資料も交えて整理しました。

「経年美」は変化を前提にした素材選び

経年美とは、年月とともに素材の色や手ざわりが変わり、その変化を味わいとして楽しめる状態のことです。
検索では「経年美化」という言葉で調べる方も多いようです。

ビニールクロスや樹脂の化粧シートは、新品の状態をできるだけ長く保つように作られています。
一方、無垢材や漆喰、天然石は、もともと自然の中にあった素材です。
湿気を吸ったり、空気と反応したり、光で色が変わったりと、住んでからも動き続けます。

素材時間とともに起きること付き合い方の基本
無垢材色が深まる、傷がなじむ、季節で伸び縮みする乾拭き中心、塗装に合わせた手入れ
漆喰空気中の二酸化炭素を取り込んで硬くなる汚れは早めに、細いひびは補修できる
珪藻土風合いは保ちやすいが、表面はやわらかめこすらない、液体は早く拭き取る
石硬い石は変化がゆっくり、やわらかい石は風雨で傷みやすい使う場所に合った石を選ぶ

経年美のある家は、手入れをしなくていい家ではありません。
変化することを知ったうえで選び、変化に合わせて手をかける家です。
この前提を家族で共有しておくと、住んでからの「こんなはずじゃなかった」がぐっと減ります。

無垢材は色が深まり、傷がなじんでいく

木は湿気を吸ったり吐いたりする

無垢材は、丸太から切り出した木をそのまま板にした素材です。
林野庁の森林・林業白書(令和元年度)では、木材の特徴として調湿作用が挙げられています。
湿度が高い時期には空気中の水分を吸収し、低い時期には放出するというものです。
同じ白書には、木材はほかの建築資材に比べて熱伝導率が低く、断熱性が高いとも書かれています。

冬の朝、素足で歩いたときに無垢の床がひやっとしにくいのは、この性質のおかげです。
私自身、打ち合わせでお客様に無垢材とシート張りのサンプルを両方触ってもらうと、ほとんどの方が手ざわりの違いにすぐ気づかれました。

色の変化も無垢材の楽しみです。
チェリーは赤みを帯びた飴色に深まり、ウォルナットは少しずつ明るく落ち着いていく、とよく言われます。
樹種や日当たりで変わり方が違うので、ショールームで新しい板と年数のたった板を見比べておくと安心です。

新潟の冬は床にすき間が出る季節

新潟で無垢材を使うなら、冬の乾燥は知っておきたいポイントです。

三重県林業研究所の解説によれば、自然の大気中に置いた木材の平衡含水率(周囲の湿度に合わせて落ち着く水分の割合)は、全国平均で約15%とされています。
そして近年の木造住宅は、高気密・高断熱化と冷暖房の普及で、室内の木材の含水率がさらに低くなる傾向にあるそうです。
断熱性能の高い家が増えている新潟でも、暖房をよく使う冬は、床の板が乾いて縮みやすくなります。

北海道立総合研究機構 林産試験場の林産試だより2020年5月号では、この現象をこう説明しています。
暖房で室内の湿度が下がるとフローリングが縮み、板の継ぎ目が開いて目立つことがある。
ただし通常は、湿度が上がると徐々に閉じて元に戻るので特に心配はない、という内容です。

同じ資料には、無垢の床と長く付き合うためのヒントも載っています。

  • 床下に温風を流す暖房は床裏から乾燥が進み、割れが起きやすい
  • 温水を循環させる床暖房は湿度の低下が小さく、床板へのダメージが比較的小さい
  • 板幅を狭くすると一枚あたりの縮みが小さくなる(幅150mmに比べ50mmなら1/3)
  • 床暖房用の単層フローリングは幅65〜75mmが標準
  • 清掃は乾拭きが基本で、水拭きや水性ワックスは避ける

冬にすき間が開いても、梅雨どきにはまた閉じていきます。
この呼吸を「劣化」ではなく「季節の変化」と受け止められるかどうかが、無垢材を選ぶときの分かれ目になります。
床暖房を入れる予定があるなら、板幅や樹種を設計の段階で相談しておくのがおすすめです。

住んでからできることもあります。
暖房をよく使う時期は加湿器で湿度を整え、室内が乾きすぎないようにしておくと、すき間や割れの予防になります。
木のためだけでなく、のどや肌にとっても過ごしやすい環境です。

オイル塗装とウレタン塗装の選び方

無垢の床は、表面の仕上げで性格がかなり変わります。

仕上げ特徴向いている人
オイル・ワックス系木に染み込み、表面に膜を作らない。木の手ざわりが残る素足の感触を大事にしたい、自分で手入れを楽しめる
ウレタン系表面に塗膜を作り、水や汚れから守る小さな子どもやペットがいる、手入れの手間を減らしたい

オイル系は、傷がついても部分的に塗り直しやすいのが利点です。
ウレタン系は汚れに強い反面、木に直接触れている感覚は薄くなります。
どちらが正解というより、暮らし方で選ぶものです。
キッチンやダイニングだけウレタン系、リビングと寝室はオイル系と、部屋ごとに分ける方もいらっしゃいました。

塗り壁は時間をかけて硬く、落ち着いていく

漆喰は時間をかけて石灰石に戻る

漆喰は、日本の城や土蔵にも使われてきた白い塗り壁です。
日本左官業組合連合会が運営するしっくいまるわかり大辞典によると、原料は石灰石です。
石灰石を焼いて生石灰にし、水を加えて消石灰にしたものが漆喰の主原料になります。
これを壁に塗ると、空気中の二酸化炭素と反応して、元の石灰石と同じ炭酸カルシウムに戻っていきます。

つまり漆喰は、塗った日が完成ではありません。
年月をかけて少しずつ硬くなっていく素材です。
白さの中に、光の当たり方でほんのり陰影が出るのも、コテで仕上げた塗り壁ならではの表情です。

漆喰と珪藻土の違い

塗り壁を検討していると、漆喰と珪藻土のどちらにするかで迷う方がたくさんいます。
私が打ち合わせでお伝えしてきた違いは、だいたい次のとおりです。

  • 漆喰は消石灰が主原料で、表面がなめらかに仕上がりやすい
  • 漆喰は年月とともに硬くなり、表面の強さが増していく
  • 珪藻土は植物プランクトンの化石からできた土で、ざらっとした素朴な質感になる
  • 珪藻土は表面がやわらかめで、こすれると粉がつくことがある
  • どちらも液体がしみ込みやすく、ゴシゴシ水拭きするのには向かない

人がよく通る廊下や、子どもの手が届く高さには、汚れや傷のリスクがあります。
そこは腰壁にする、汚れが目立ちにくい色を選ぶといった工夫で、塗り壁のよさを残せます。

手に取れるサンプルは、ぜひ指でなでてみてください。
なめらかな漆喰と、ほろっとした珪藻土では、同じ白でも光の返し方がまるで違います。
照明を当てたときの陰影まで見ておくと、完成後のイメージがずれにくくなります。

ひび割れと施工時期の話

塗り壁のひびは、多くが下地の動きや乾燥による収縮から生まれます。
新潟県が補助事業のために定めた漆喰の標準仕様書にも、髪の毛ほどの細いひび(ヘアークラック)はタッチアップで補修する、と書かれています。
細いひびなら同じ材料を擦り込んで目立たなくできるので、過度に怖がる必要はありません。

雪国ならではなのが施工時期です。
同じ仕様書では、施工地の最低温度が3℃を下回る場合は施工を中止する、と定めています。
真冬の新潟で塗り壁を予定しているなら、工期や暖房養生について早めに工務店と相談しておくと安心です。

新潟県は、塗り壁そのものを後押しする制度も用意しています。
令和8年度 新潟県産材の家づくり支援事業では、県産材を使った住宅で漆喰や珪藻土を塗ると、施工面積に応じた加算補助があります。

施工面積漆喰塗り珪藻土塗り
20〜40㎡未満5万円4万円
40〜60㎡未満11万円8万円
60〜80㎡未満14万円10万円
80㎡以上19万円13万円

注意したいのは、補助を受けるのは県内の工務店などで、施主に直接支払われるものではない点です。
補助額の一部を建築主に還元することが条件になっているので、依頼先の工務店がこの事業に取り組んでいるか聞いてみてください。

石は硬いものを外に、やわらかいものを内に

吸水率で見る石の向き不向き

石は、無垢材や塗り壁に比べて変化がゆっくりな素材です。
ただ、産業技術総合研究所の前身である地質調査所が1991年に出した地質ニュース443号「変貌する石材と廃材」には、「石は永久不変、と思われがちである」としたうえで、目立たないだけで長い時間をかけた変化は着実に起きている、と書かれています。

同じ資料では、国産の御影石(花崗岩)の吸水率が0.21〜0.33%と紹介されています。
水をほとんど吸わないので、昔から外壁などの外装に好まれてきました。
大理石は室内の装飾に好まれ、風雨にさらされると表面が傷んで汚れが目立つ例が少なくない、とも記されています。

雪や雨にさらされる新潟の外壁やアプローチには、吸水率の低い硬い石が向いています。
大理石のようにやわらかい石は、室内の床や壁で楽しむのが基本です。
外構に石を使うときは、どの石を、どこに、どう仕上げるのかを、設計者と一緒に確かめておきましょう。

キッチン天板は酸に気をつける

キッチンの天板に天然石を選ぶときに覚えておきたいのは、大理石の主成分が炭酸カルシウムだということです。
炭酸カルシウムは酸と反応するので、レモン汁や酢、ワインがついたまま放っておくと、艶が失われてシミになることがあります。

御影石は大理石より硬く、水も吸いにくいので、天板には扱いやすい石です。
それでも、汚れはこまめに拭き取り、石材に合った洗剤を使うのが長持ちのコツです。
ちなみに漆喰も炭酸カルシウムに戻る素材なので、酸性の洗剤は避けたほうが無難です。

素材は「完成した家」で見て選ぶ

サンプルの小さな板やタイルを見ているだけだと、素材の魅力は半分くらいしか伝わりません。
床・壁・外壁が組み合わさり、光が入って、はじめて素材の表情がわかります。

モデルハウスや完成見学会に行くのはもちろんですが、普段から住宅の事例を眺めておくのも素材選びの練習になります。
私がよく見ているのは、新潟で見かけたハイエンドな住宅を記録しているブログです。
天然石の壁と白い塗り壁を組み合わせた中庭のある邸宅や、「経年美」をうたうフルオーダーの住宅など、新潟の住宅会社の事例が紹介されていて、素材の組み合わせ方のヒントになります。

気になる素材が見つかったら、住宅会社には次のようなことを聞いてみてください。

  • 築5年、10年たった家で、この素材はどう変わっていますか
  • 冬の乾燥や結露について、どんな対策をしていますか
  • 傷やひびが出たとき、補修は自分でできますか、それとも依頼が必要ですか
  • 日常の手入れに使う洗剤や道具は何がいいですか

完成直後の写真だけでなく、年数のたった家を見せてくれる会社は、素材と長く付き合うことを考えている会社だと私は思います。

まとめ

無垢材・塗り壁・石は、どれも住み始めてから表情が変わっていく素材です。

無垢材は湿気を吸ったり吐いたりしながら色が深まり、冬はすき間、梅雨はまた閉じるという季節のリズムを持っています。
漆喰は空気中の二酸化炭素を取り込んで、時間をかけて石灰石に戻っていきます。
石は硬いものを外に、やわらかいものを内に使い分ければ、長く美しさを保てます。

雪と寒さのある新潟では、冬の乾燥や施工時期など、気候に合わせた選び方と手入れが欠かせません。
それでも、10年後に「この家、いい顔になってきたね」と家族で言える楽しみは、経年美のある素材ならではのものです。
家づくりを考え始めたら、まずは気になる素材の「その後」を見に行くところから始めてみてください。

最終更新日 2026年10月27日 by nerdyf